生物と無生物のあいだ/福岡 伸一

叙情的で平易な語り口で、とても科学者の文章とは思えないロマンをも感じる一冊でした。


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)image

モーうし。」から続けて読みました。TBS ラジオのポッドキャストサイエンス・サイトークで著者が2週に渡ってゲスト出演されていましたが、興味深く聴きました。科学というより哲学的な思想をもった研究者といった印象の方です。それだけに学会では異端な存在らしいのです。食の話題では、アメリカ人の体はトウモロコシ由来の炭素元素で出来上がっているという、同じく TBS ラジオのポッドキャスト映画評論家の町山智浩さんのコラムの花道での「キング・コーン」の話も怖いのです。あなたの食べているハンバーガーやコーラは遺伝子組み換えされたトウモロコシから出来ているのです。牛肉からシロップ、今じゃ燃料までコーン起源の炭素原子が、たゆたって行くのです。「食」には問題が山積です。

太古の昔から認識されていた、生命の流転という思想を分子レベルで証明して、生命の驚異を見せつけてくれます。人間の肉体は数ヶ月で全て入れ替わってしまうのにはビックリしました。舌の細胞は、なんと数時間単位で!?髪の毛や皮膚、爪などには実感が持てますが、脳細胞や心筋に至まで、細胞の分子レベルでは、食物由来のタンパク質によって、ことごとく入れ替わっているのです。

秩序を維持するための破壊、死に向かう「エントロピー増大の法則」に対抗すべく編み出された、生命のしなやかな動的平衡は仏教的な哲学をも感じます。我々の肉体は自然の流れの中では、一瞬の淀みでしかなく、そして、この一瞬は、もう戻らないという概念を、科学的に説明していきます。

生命の動的平衡観念を発見しながらも、名誉などとは無縁に自殺してしまったルドルフ・シェーンハイマーの逸話も面白いです。かたや、DNA 構造の解析に、しのぎを削る研究現場のダークな駆け引き、ノーベル賞変人天才サーファー研究者、ミュージシャンの研究技術員まで、活き活きと描き出されているので、とても興味深く読めました。

そして、章間に語られる、著者の科学者としての原風景の美しい描写も心に響くのでした。ロマンチストな文学者と見まごう筆力です。

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2007年11月30日 (金) at 01:31



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