階/谷村 新司

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階で「きざはし」と読む。アリス谷村 新司の短編集。最近頓にスピリチャルな方向に進んでしまっていますが、ラジオなんかでは相変わらずひょうきんな一面も魅せていて益々元気な谷村さんであります。

こじつけとも取れる謎解きが結構、ふ〜んと頷いてしまうのが不思議なのです。小説という形を取っているので押しつけがましくなく読めるのでしょうね。人間の起源から我々の未来は何処へ向かって行くのか?なんて考えちゃいますね。ドレミの秘密なんて、うんちくとして飲み会でネタに出来るんじゃないでしょうか?

15歳の東京大空襲/半藤 一利

15歳の東京大空襲 (ちくまプリマー新書)image

日本人にとって8月は特別な月です。終戦の日が、お盆だというのにも、日本に背負わされた業なのだろうなと、子供の頃から漠然と感じていました。無差別戦略爆撃から2発の原爆で大量殺戮が行われた戦争の愚かさは決して忘れてはならないと思います。同時に日本の行った侵略行為も狂気の沙汰です。日本と米国は戦争していたの?と、真顔で聞き返す最近の、ゆとり世代にビックリするわけですが…。それだけ周りに戦争体験者がいなくなって、学校の授業でしか学べない話になってきている証拠なのでしょうかね。

歴史小説で有名な作者が初めて自分自身の戦争体験を告白するというのも興味深いです。近代歴史の専門家なので歴史検証も、しっかりしていてオススメです。当時の戦争に突き進む社会の空気を小学生から中学生になる少年の視点から生々しく語っているのですが、薄ら寒ささえ感じてしまいました。こうも簡単に戦争を始めてしまうものなのかと。といっても全くもって暗い話かというと、そうでもなく、皇軍軍国少年とは一線を画した、文系少年の、わんぱく振りや学徒動員で工場で知り合ったお姉さんとの初恋話も出てきたりと、活き活きとした溌剌な少年の生活が描かれています。日本軍の連戦連勝に湧く中、国の云っていることは全部嘘っぱちだ!と嘆くお父さんの反骨っぷりもいい。そんな生活の中に暗い影が忍び寄ってくる空気感には冷や汗してしまうのです。

戦争体験は本当に語り部が少なくなっているので貴重な体験談だと思います。焼夷弾の炎から逃げ回る描写は耐え難いものがありました。どうしたら戦争を回避することが出来るのか?日々の我々の暮らしの中から争いの種を排除していく事だという言葉を肝に銘じて生きていきたいと思います。

ゴールデンスランバー/伊坂 幸太郎

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映画が面白かったので読んでみました。原作の方が面白いというのは、どんな映画でも当たり前だと思うのですが、やはり映画の補足となるエピソードも沢山あって、面白いですね。逆に、これだけカットした、お話があるのにも関わらず、余計な部分をそぎ落として、ストレートにあらすじが追える映画の作りが素晴らしいと再び感心してしまいました。

首相暗殺の無実の罪を着せられた主人公が仙台を逃げまくる話。それぞれの登場人物からの視点と時間が入れ子になっていたりして立体的な構造になっています。コレを映画でやったら、かなりの腕前ですが、分かりにくくなるでしょうね。複数視点が交錯し時間軸が前後するこの手法は「グラスホッパーimage」でも見受けられましたが、作者の得意とするところでしょう。

生真面目な青年を支えるのは大学時代の友情と自分の生き方に誇りを持つ大人達。こういう大人になりたいモノです。

2011年新聞・テレビ消滅/佐々木 俊尚

2011年新聞・テレビ消滅 (文春新書)image

米国では新聞社がバタバタ倒産しているし、雑誌も休刊相継ぎ、テレビを代表するマスメディアは瀕死状態にあるという、お話。デジタル化によって息の根が止められてしまうという結末が、もう来年に訪れるわけです。

これまでのマスメディアのとってきたビジネスモデルはとうに古くさくなってインターネット時代にそぐわないモノになってきている事に、記者クラブに、あぐらをかき、まともな取材を行ってこなかったマスコミは気付いていないという、客観的なマスコミ批判には納得するところ。大手広告会社に制作をまかせて中間搾取よろしく、まともな番組を作る能力の無くなったテレビキー局の衰退は、最近はテレビを付ける事も少なくなった僕の生活パターンからも、よく判る結果。

新聞やテレビは本当のことを報道しないという事は、これまで生きてきて嫌と云うほど分かってきたことなので、マスメディアは一度崩壊するのが正解で日本の健全な情報産業を再出発すべきでしょう。Twitter など、情報はミドルメディアのクチコミの時代にシフトしていくのは、かなり早い段階でやってくるのではないでしょうか?